ダビンチはなぜ鏡面文字を書いたのか

六本木ヒルズの森アーツセンターで「レオナルド・ダ・ビンチ展」を見てました。
人類史上最大の天才の一人、レオナルド・ダ・ビンチの直筆の手稿(レスター手稿、72ページ)を500年後のいま、現物を見ることができる、というのはしびれるような感動です。

このレスター手稿ビル・ゲイツの個人所有ということでも話題です(あの使いづらい、傲慢至極のOSやオフィスソフトの代金を払っているのは自分なんだから、この手稿の間接的所有権の何億分の一かは自分だよな、、、これ愚痴)。内容は天文学流体力学、地球物理など多分野にわたり、精緻な考察メモや実験ノートがびっしり書き込まれています。

レオナルドが鏡面文字を書くことは知っていましたが、現物を見るのははじめて。拡大された文字を見てもなかなか文意がわかるどころか、スペルさえ読み取るのは難しいのです(私がイタリアにいたのは3年弱で、手書き文字を読む機会はあまりなかったので無理もないのですが)。ただ、会場の一角に、鏡面文字を実際に鏡を置いて読ませるところがあり、活字(現代表記)と照らし合わせながら見てみると、たしかに結構読めたりしたので、あらためて感動してしまいました。

なぜ、レオナルドは鏡面文字を書いたのか?暗号として意識的に書いたという説もありますが、実際には

レオナルドは若い頃から、左手にペンを持ち、鏡に映った文字のごとく、左右逆向きに文字を書いた。......しかし、よく言われるように左右逆向きに書くことによって、書かれている内容を秘密にしておこうと思ったわけではない。単に幼い頃から周囲の人々が、彼のそのような習慣を直さなかっただけである。このことは少年時代のレオナルドがいかに自由に育てられたか、ということを証明すると同時に、読み書きに関する教育をあまり受けなかったという証拠でもある。(レオナルド・ダ・ビンチ 真理の扉を開く 23ページ)

というのが正しいようです。

レオナルド・ダ・ヴィンチ:真理の扉を開く (「知の再発見」双書)

レオナルド・ダ・ヴィンチ:真理の扉を開く (「知の再発見」双書)


ではなぜ、鏡面文字をある意味自然に書くようになったのか? 左利きの子供には結構、鏡面文字を書く子供がいるようです。が、もっと可能性が高そうなのは彼は一種のLD(Learning Disabilities=学習障害)であったという説です。LD(学習障害)の子供たちの中には結構な割合で鏡面文字を書く子がいます。彼らは、全く普通に文字を書いている感覚で鏡面文字を書いています。あれだけの緻密な考察や図面を記入する際にはレオナルドは非常な精神集中をしていたはずで、ある種、無意識のうちに鏡文字を書いていた、というのが私の想像するところです。

レオナルドやアインシュタインのような天才は、同時にどこか社会的に欠けているところがあり、彼らの行動を分析すると多くの医者・学者が彼らはLDであったと推察しています。人類の智の蓄積や科学・芸術の発展に計り知れない貢献をした天才が、いわゆる障害者(最近はチャレンジドという言い方も増えてきましたが)の範疇に属するというのは(知っている人には至極当たり前のことなんですが)健常者と障害者の間に線を引いたりすることの愚かしさを思い出させてくれます。